06/50|動かない右手

遠い未来か、近しい過去か、ここの話の本筋と、全く関係ない話。
 
6:動かない右手
 
 昼寝のまどろみから目覚める時間は好きだ。浮上する感覚に似た不思議な快さと、
明かりが見えて、だんだん意識が広がっていく感覚。その中に今、僕はいる。
「ん……」
 意識の浮上とともに記憶も鮮明になっていく。そうだ、僕は確か、子守の途中で眠ってしまったんだ。
 目が覚めた。枕元に愛しい我が子の顔。すやすやと、屈託の無い寝顔を晒している。
そして、その向こう側。子供をあやす様に包み込んで眠っている、文の姿があった。
「……ああ、なるほど」
 どうやら寝ている間に文がこちらに来たらしい。全く気付かなかった自分の鈍感さにびっくりする。
その彼女も、今は少女のような寝顔で安らかな寝息を立てている。子供を抱きながら眠る二人の姿は
なんだか一枚の絵画のようで、見惚れてしまった。暫くそうしていると、
「ん……ぅぅん……」
 と、文が身じろぎし、目がぱちりと開いた。
「ぅぅ……ん? あ」
「おはよう、文」
「おはようございます、あなた」
 にっこりと微笑む文に挨拶。
「……いつから?」
「寝ていたのでわかりませんけど、二人とも寝ている間に、ですね」
 やはりそのときの僕は、気付かなかったらしい。
「あなた、疲れてたみたいでしたし、この子の面倒を見ようと思ったんですけれど」
 見てたら私も眠くなっちゃいました、と少し恥ずかしそうに彼女は教えてくれた。
「私が見てますから、あなたはリフレッシュしてきていいですよ?」
「じゃあ、そうさせてもらおうかな……ん?」
 そこまで言われて気がついた。右手が全く動かない。
 視線を腕の先に遣る。そこには、彼女の頭があった。具体的に言うと腕枕。
「ううん、コレじゃあ動けないね」
「あ、ごめんなさ……あー」
「文?」
 頭を上げようとする射命丸が何かに気付いたように動きを止める。
「困りました、この子が起きちゃうかも知れません」
 見ると、文は文で子供に腕枕をしてあげているのだ。確かに、動くと拙いかもしれない。
暫く考えて、から、僕は答えた。
「じゃあ、このままでいいね」
「いいんですか?」
「親子三人でこうやってお昼寝するのって、素敵じゃないか」
 文も嬉しそうに小さく頷いて、それもそうですね、と笑った。
「ほんじゃ、もう一眠りしようかな」
「ええ、おやすみなさい、あな……」
「ふぇ」
 お休みの挨拶をしようとしたところで、第三の声がした。見ると、我が子がすっかりおめざで
マジでぐずる5秒前といったところだった。
「ふぇ」
「文……」
「ええ、これは……」
「びぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
 赤ん坊とは思えない声量と、それに伴う衝撃で僕はベッドの外へ吹っ飛んだ。半分とはいえ、
妖怪ってのはすごいもんだ。霞む意識はいまだ響く泣き声で意識を向こうへ飛ばすことすら許さず
僕はふらふらと立ち上がる。
「おーよしよし、あややややー♪」
 文はそんな子供をあやしはじめた。どうやらお腹がすいていたらしく、文が子供に
乳を与え始めると一気に静かになる。その間に僕は散らかってしまった部屋の物を片付け始める。
寝室だから壊れる物はあまり置いていないのだけれど、まるで小さな嵐でも起きたような部屋は、
泥棒かと疑いたくなるほどぐちゃぐちゃだった。
「まだ慣れないなぁ」
 彼女の仕事の関係上、子守りは僕がすることになった、とはいっても、たまにこうやって
手伝って貰っている訳だけれど。それでも、ときどき、こんな事が起こったりもする。その時は
必死に彼女の(一応「娘」なので)機嫌をとるために精一杯がんばるが、落ち着いたときには、
僕はもう疲労困憊してしまうのだ。
「そのうち大丈夫になりますよ」
 ニコニコしながら文は答える。だがどうして、文は娘がお腹をすかせているとわかったのだろう。
「文、どうしてすぐにわかったの?」
「え? この子が教えてくれるじゃないですか……おなかいっぱい?」
 どうやら娘の食事が終わったらしい。抱っこの姿勢で娘の背中を軽く叩く。そうしながら
びっくりしたように文が答える。
「いや、僕にはさっぱり」
「けぷ」
「はい、よくできました♪ んー、なんて言うんですかね、お腹がすいてるときは、
おむつの時よりも、四半音高いんですよ」
「四半音!?」
 どうやら、娘は、気分で泣き声の高さが変わるらしい。正直、僕には全くわからない。
そうこうしているうちに、娘がうとうとしだした。またおねむらしい。
「さ、○○さん?」
 お布団をぽんぽんとしている。どうやら、腕を置けといっているらしい。
「はいはい」
 横になって、腕を伸ばす。そこに、ぴたりと文の頭が乗る。文の腕には我が娘。何だか
僕と文とで大きな卵になった気分。真ん中で娘が安心しきった顔で眠るのを見ていると、
また瞼が重くなっていく。
「今度こそ、お休み……」
「おやすみなさい、あなた」
 文のおでこにキスをする。くすぐったそうに笑う彼女と、彼女に抱かれた娘にタオルケットを
かけなおして、僕もいよいよ瞼を閉じた。
 願わくば、夢でも皆に会えるよう……。
 
@チルノの裏
 まず一言。
「なんだこれ」
 ごめんなさい。リハビリがてらに書いた恋人の50のお題の6なんですけど、
 途中から自分で何かいてるかわからなくなっちゃいましたorz
 多分加筆修正するのでとりあえず放置。
 ああ、こんな完成度のSSを書いてしまった上にupしてしまうとかどんだけ恥知らずッ!?
 

Д゚)。o{ああ、夢虹SS書いてる時点で恥知らずとかそういう突っ込みはヤボってもんだぜ}