テーマ書き:夏風邪

体調を崩したんだけど、持ち直しました。
どうも、夢二です。
とりあえず久々にあややネタ。改めて読み返したら、料理人じゃないな、コレ。

***

「こほ……こほ……」
 射命丸文はいい具合に夏風邪だった。彼女はここ数日の生活を思い返して全力で反省していた。
 
 
 五日前、七夕ではしゃいで○○を川に突き落として笑ったら河童と○○に一緒になって
引きずり込まれた。すごく楽しかった。目をそらしながらせっかくのかわいい浴衣が台無しだ、
と言った○○の顔が赤かったのが思い出される。
 四日前、久々に夜雀の居酒屋に行ったらビアガーデンだった。みんなで飲みまくった。
○○が酔い潰れるまで、正確には酔いつぶれても飲んでいた。すごく楽しかった。
彼が自分の膝枕で気持ちよさそうに寝ているのを見て、なんだかほっこりした。
 三日前、曇天だったので○○と空中散歩。思い切り上昇して、雲を突き抜けて真っ青な空
を二人で楽しんだ。すごく楽しかった。○○は飛べないのでずっと抱えていて、手が痺れ、
二回ほど落としそうになったのは愛敬だ。
 一昨日、○○が流しそうめんをやると言ったのでみんなで遊びに行った。涼しくて、美味しい
そうめんをみんなで食べた。すごく楽しかった。全部みんなで平らげてから、○○の分が
ないことに水桶ひっくり返されてから気づいたが、あれは弱肉強食だろう。
 昨日、○○と川遊びに行った。香琳堂で手に入れた水着で○○を悩殺しようと思ったら
効果てきめんだった。すごく楽しかった。但し主に胸囲が足りないと水着に言われた気がして
少し屈辱感を覚えたのは、心にしまっておこう。
 川遊びでぬれた体を気にすることなく遊んでいたのが災いしたのか、家に帰って寝る前には
少し頭がふらふらし、朝が来るころには布団から起きられないほど病状が悪化していたのだった。
「うう……こほっ……」
 我ながら馬鹿だと思ったが、そもそも馬鹿は風邪をひかないのでそうではないと、
無意味な自問自答をしてみたが、悪戯に意識が混濁していくだけだった。
そも、起きられないので独り暮らしな以上、何もできず、救援も呼べないという、
非常にまずい事態だった。ただでさえ病気で気が弱っているのに、この孤独がとても辛い。
目から涙が一筋こぼれる。
「ううぅ……○○さん……」
 朦朧とした意識の中、口から出たのは嗚咽と大切な人の名前だった。
「淋しいです……苦しいんです……助けてください……○○さん……○○さん……」
 祈るように、願うように、薄れていく意識の中、うわごとのようにその名を呼びつづけた。
 
 
…………
 
……
 
 意識が浮上してくる。どうやら眠っていたらしい。寝起きの胡乱な頭で、違和感を覚えた。
 まず感じたのは気持ちのいい冷たさ。氷枕だろうか。ぼぅっとする熱さを取り除いてくれている。
 次に誰かの足音。できるだけ音を立てないように動いていて、気遣いが感じられる。
 そして遠く、具体的に台所のあたりから聞こえてくる物音が、まるで料理でも作っているようだった。
 
「んぅ……」
 目が覚める。先ほどと同じ天井に、ここは自分の家だと認識できる。額に乗った濡れタオルが
まだ冷たい。いつの間にか頭の下には氷枕まで入ってある。
「誰か……いるの?」
 寝返って横を向くと、水を張った洗面器と替えのタオル、水差しと湯呑が置いてある。
丁度喉が渇いていたので、ありがたくもらうことにした。一時期よりずいぶんと楽になった
体を、のそりと起こし、湯呑に注いだ水を飲む。
「んっ……っ……っ……っはぁ……」
 ゆっくりと、湿らすように水を飲む。湯呑から口を離して、ようやく人心地ついた。
 そこへ、足音が近づいてくる。ふすまが開いて、両手で鍋をもった人物と目があった。
「あ」
「ま、○○さん!?」
 
…………
 
……
 
「ほい、粥だ。熱いから気をつけろよ」
「は、はい……」
 鍋から器に移されたおかゆを受け取って、その湯気を見ながら○○に事情を聞いた。
どうやら遊びに来たものの返事がなかったから勝手に入ってきたらしい。鍵は開いていた
そうだ。ふらふらと帰ってくる際に鍵を掛けるのを忘れてしまったのだろう。
 女性の部屋に勝手に入るデリカシーのなさに少し嗜めようとも思ったのだけれど、食べた
おかゆが美味しくて、つい「まぁいいか」と思ってしまった。
「粥、うまいか? 台所のもん、勝手に使っちまってすまんが」
「いえ、ありがとうございます。美味しいです……はふ」
 冷えた頭に、熱いおかゆが心地いい。ほっとする温かさがのどから胃に伝わって、気持ちいい。
箸休めの潰した梅をつついたりして、あっという間におかゆがなくなった。
「ん、食べる元気があるなら大丈夫だ。これならすぐによくなるさ」
 そう言って○○は満足げに頷いた。
「ありがとうございます、○○さん……」
 再び布団に寝かせられ、冷たいタオルが額に乗った。
「ほいじゃ、僕は帰るかね、ゆっくり養じょ……?」
 そう言って立ちあがろうとする○○の袖を、思わず掴んでしまった。
「あの……もう少し、いてもらえませんか?」
 その袖を優しく振り払われる。背筋にとても寒いものが走った。だが、○○は優しいことを
自分は知っている。
「先に粥の器片付けてくるわ。固まると洗うのが億劫になるからさ」
 そう言って優しく頭をなでられた。不覚にも泣きそうになったのは。額の濡れタオルのせいにしよう。
 
 
 結局、その日は寝るまで○○が射命丸の手を握っていてくれたんだとか。
 
 
***
 
 
 で。
 
 
「げほ……げほっ……」
 当然のように風邪をうつされる○○。起きるのもつらそうで、近づいてくる足音に首だけ
そちらに向ける。
 
がらっ
 
「どうも、文文。新聞です! 病気と聞いて勧誘に来ました!」
「頼む、勧誘じゃなくて看病にしてくれ……」
 悪のりの友達のような、恋人のような。そんな二人のある日常。めでたし、めでたくもなし。
 
@発つ烏
夏風邪なんかあっちいけっ!(挨拶
 
普段元気な子が酷い風邪とかで元気がなくなったり心細くなってるのにキュンと来るのって
ありますよね。それにつけてもあまりに自分のひゅおうげん力(正:表現力)がないのに嫌気がさしたのでここらで。
お茶を濁す